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2020.8.12

人を殺す(かもしれない)デザイン:車におけるタッチスクリーンUIの普及は大丈夫か?

written by ロイ

テスラの電気自動車を筆頭に、車の操作用UIにタッチスクリーンが多用されることに対して、私は前から問題を感じていました。多分、10年くらい前にシリコンバレーでテスラの車を初めて見た時からだと思います。運転席の隣に配置された大きいディスプレイの迫力は凄かったけど、

「あれは絶対にディスプレイの操作に気を取られて事故るだろう」

と一緒にいた同僚に話したことを今でも覚えています。そして、実際にそのような事故は起きました。

体で覚えられないUI

人間はある道具に慣れると筋肉の記憶によって操作できてしまう部分が多いので、自動車の運転のように常に前方の状況を確認する必要がある行為をしている途中に操作するもの対しては物理的な装置があった方が絶対に安全だと思っています。皆さんも慣れた自分の車なら別に見なくても手を伸ばして操作できることが多いでしょう。あるいは指先の感触でそのボタンがどういう状態かを見なくても感じ取れたりもします。(車の運転をしないから何を言っているか分からない?なら、キーボードの操作でも同じことが言えます。目はスクリーンを見ていても的確なキーを打つことができるし、指の正しい位置はFとJキーの凹凸を指先で探すことによって見なくても確認できますね?)

この画面を見ずに操作できるか?

しかしタッチスクリーンになるとそのような筋肉の記憶が使えなくなります。タッチスクリーンの中のGUIで表現されたボタンを操作するには目で見て操作するUI要素の位置を確認する必要があります。更にGUIにモードが切り替わったり、ポップアップが出てきたり、操作結果も確認が必要になったりするとディスプレイに気を取られる時間がどんどん長くなるのは当然のことです。

だから、テスラの最先端の電気自動車の広大なディスプレイを見た時、「カッコいい!」と思いながらも、走行中の運転者の注意を前方から逸らすことの危険性にはどう対応する?と大きい疑問を感じたんです。

「その仕事はお断りします。」

それから数年後、日本のある空調機メーカーから自動車に搭載するエアコンのタッチパネルのUIをデザインして欲しいとの依頼がありました。既存のボタンやつまみを採用したアナログ式のUIから流行りのタッチスクリーンのUIを採用した新製品を開発するということでした。しかしそのお客様との初めての会議で私は自動車の運転中に操作するタッチパネルの危険性だけを長く述べてしまい、結果的に案件受注には至りませんでした。ある意味、こちらから断ってしまったことになります。

しかし後悔はしておりません。私は人を危険に晒すようなデザインはしたくありませんでした。運転中のエアコンの操作くらい、今までのアナログのつまみかボタンの方が有効です。もし改善するとしたら自動制御にしてセンサーの感度やアルゴリズムを改善するか、せめてVUIを使って音声による制御にした方がより良い方向性です。流行りだからと言ってタッチスクリーンを前方ガラスから遠いところに配置して運転者に操作させることには抵抗を感じたんです。当時のそのお客様にも次のように明確に言いました。

「これは下手すると人を殺すデザインになりますよ。」

起きる可能性のあることは必ず起きる!

そして、最近ドイツで予想した通りの事故が実際に起きました。

雨の中でワイパーの操作のためにディスプレイに気を取られた人が道端に車を突っ込んでしまったのです。テスラはワイパーのオンとオフはハンドル周りのアナログ式の物理ボタンでできるけど、ワイパーの速度調整にはディスプレイの操作が必要らしいです。「自動」に設定することもできるけど、自動の設定にはある程度のズレがあったりして使ってない人もいるらしいです。いずれにせよ、自分でワイパーの速度を調整するにはディスプレイで操作をする必要があるらしいです。以下の画像でもわかるように、運転中にポップアップを出してその中で更に適切な速度の部分をタッチしないといけないのです。これ、操作を完了するまでに何秒かかるんでしょう?またその間に車はどれくらいの距離を進むんでしょう?

操作には何回のタッチが必要か?

結果的に、そのドイツの運転者は道から逸れて事故を起こしてしまったんです。この事故の責任は誰にあるんでしょうか?運転手でしょうか?あるいは、テスラのデザイナーでしょうか?裁判では最初は運転手の過失だとされたけど、再審では一部自動車メーカの過失も認められたそうです。もしこの運転手がテスラではなく、既存の車を運転していたらこの事故は起きてなかったかもしれません。(あるいは、テスラが完璧な自動運転を実現させていたら良かったんでしょうけど・・・。)

命を救うかもしれないデザイン

ちなみに、これとは真逆のデザインもあります。例えば、最近の高級車種には大抵HUD(Head-up Display)がついていたりします。

必要最小限の情報を適切な場所に配置

HUDは前方の道路を見ながら同時に情報を見ることができ、既存のナビより遥かに安全です。ナビに比べると映る情報量は少なく、走行に必要な最小限の情報しか見えませんが、それが良いと思います。運転には十分役立つし、多い情報量はまた運転に邪魔になるだけだからです。私は最近HUDがある車を運転していますが、これは相当便利です。またこのデザインによって防げる事故は絶対にあるはずです。ひょっとしたら、これは人を生かすデザインと言えるかもしれません。

デザイナーの責任は重い!

普段の仕事としてやっているデザインですが、その対象によっては人の命を左右することになると思うと、緊張してしまいます。これは普通のオフィスで使う業務用のシステムのUIでも同じです。ユーザーが何気なくクリックしたボタンがとんでもないビジネスの損失を発生すさせる可能性もあります。(たまにECサイトの商品単価が間違えて話題になることも一つの例だと思います。そのようなミスはデザインで防げると思います。)

UXデザインではユーザーのコンテキストを分析することがよくあるけど、デザインされたプロダクトのコンテキストもよく分析する必要があると思います。あなたのデザインによって想定してなかったリスクに露出されるユーザーがいるかもしれません。

今後、リスク回避手段としてのデザインの役割についてより詳細に書いてみようと思います。

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